IP/IT Law 日誌

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著作権法におけるInteroperability

1か月ほど前のことになりますが、5月9日、Oracle v. GoogleJava著作権をめぐる裁判で、連邦巡回区裁判所判決の判決が下されました。米国(CNET US Edition)はもちろん日本向けメディア(IT Media)でも判決が出てすぐに報じられていたところです。訴訟の対象となっていたのはJava APIで、これが著作権の保護の対象となるかといった点が争点でした*1。ざっとですが、判決を読む機会がありましたので、判決内容を以下にて若干検討してみたいと思います。なお、判決文はこちらで入手可能です。

前提事実

訴訟の対象となっているのはJavaです。Oracleはこれについて自社が著作権を有し*2Googleがアンドロイドにおいてこれを無断で使用しており、著作権侵害であると主張しました。

なお裁判所は、訴訟の対象となっているJavaについて、概要次のようにとらえています。

  • OSを問わず実行できるアプリケーションを開発するためのプラットフォーム
  • APIパッケージ、クラス、メソッドという構成要素からなる
  • メソッドは、アプリケーションの開発者が開発にあたって使用するコード
  • クラスはメソッドの集合、パッケージはクラスの集合
  • たとえると*3
    • オラクルの有するパッケージのコレクション=図書館
    • パッケージ=図書館の書棚
    • クラス=書棚に配架された書籍
    • メソッド=書籍の中に記載された章

これらメソッド等の要素の数ですが、2008年までには、6000以上のメソッド、600以上のクラス、166のパッケージが存在していました。その中で、本件の対象となったのは、37のパッケージで、そのうち3つ*4は原審段階で、Javaを合理的に利用するには必須であるパッケージ(コア・パッケージ)と認定されています。

地裁は、Javaの166のパッケージのうち37のパッケージにつき、それらがアンドロイドに使用されていたと認定しつつ、使用されていた部分はいずれも著作物性を欠くとして、Oracleの請求を退けました*5。ここでは、この判断に対するOracle控訴を受けての巡回区控訴裁判所の判断を扱います(但し、連邦巡回区が専属的管轄を有する問題ではないため、適用される法(判例含む)は第9巡回区の法である*6点は留意を要します)。

争点

Oracle控訴にかかる論点は、①著作物性、②フェアユースの成否、の2点。①は、パッケージのデクラレーションコード及び構造等(structure, sequence, organization)が、それぞれ著作物と認められるか、②は、Interoperability*7を確保するためのコピーがフェアユースを構成するか、という形で論じられています。

これらの争点について、原審では、①につき、デクラレーションコード及び構造等のいずれについても著作物性は認められない、②フェアユースの成否は判断しない(但し、陪審員による審議はなされました。もっとも、陪審員も意見が分かれ、結論を出せませんでした)、という結果になっています。

控訴審の判断

結論

控訴審は、デクラレーションコード及び構造等のいずれについても著作物性が認められるとし、フェアユースについて、判断に必要となる前提事実が明らかでないとして、事実審に差し戻しました。

理由

デクラレーションコードの著作物性について

控訴審は、原審が著作物性を否定するに当たり依拠したMerger、Short phrase、Scenes a faireの各理論*8につき、以下の通り検討し、いずれの理論のもとでも著作物性が認められると結論付けています。

Merger理論:Merger理論は、アイデア表現二分論の例外として機能する。すなわち、アイデアと表現を区別し、表現については著作物としての保護が及ぶのが原則であるが、あるアイデアを表現するための表現方法が限られている場合には、当該表現方法はアイデアと一体化するとされ、著作物としての保護は及ばないとされる。しかし本件では、オラクルには無限の選択肢があったのであり、パッケージ作成に当たり外的な要因から特定の表現にせざるを得なかったという事情はない。したがって、Merger理論によって著作物性を否定した原審の判断は誤りである。

Short Phrase理論:名称や短いフレーズには著作権の保護は及ばないとした原審の判断は、Short phrase理論の一般論としては正しいものの、その理論の本質は、創作性の有無にあり、フレーズが短いことから自動的に著作物としての保護が否定されるというわけではない。短いものでも、組み合わせについて創作性が認められる場合もある。本件では、APIパッケージの創作時点において、創作者が行ったデクラレーションの選択及び配列に創作性が認められる。したがって、Short phrase理論によって著作物性を否定した原審の判断も誤りである。

Scenes a Faire理論:Scenes a Faire理論とは、ソフトウェアとの関係でいえば*9、当該ソフトウェアを実行するコンピューターの機械的仕様やコンピューター業界で広く受け入れられているプログラミング実務といった、外的要因によって定まった要素については、著作権法による保護は及ばないとするものである。原審は、著作物性を否定するにあたりScenes a Faire理論をその理由としなかったが、Google控訴に当たりこの主張をしている。Googleの主張は次の3つの理由から認められない。

  1. この理論は侵害論についての理論であり、著作物性を否定する理由ではない
  2. 外部的要因によって定まったという事実の立証がない
  3. この理論は、創作者にとっての選択の幅を考慮するものであって、複製者にとっての選択の幅を考慮に入れるものではない。この点は、Merger理論も同じである。
構造等の著作物性について

控訴審は、概要、以下の通り、表現が機能性にかかる場合の判断につき原審に誤りがあると指摘し、構造等についても著作物性が認められると結論付けました。

原審は著作物性を否定するに当たりLotus事件*10における第1巡回区控訴審のの判断に依拠したと思われる。第1巡回控訴裁判所は、同事件で対象となったコマンド構造の著作物性に関し、実行方法*11であるため著作物性は認められない、と結論付けた。この理由づけは、第9巡回区裁判所の先例と矛盾するものであり、本件では採用できない。第9巡回区の先例であるAtari事件*12に従い、実行または処理についての表現*13著作権の保護が及びうるというべきである。原審は、本件の構造等は機能性にかかる部分であるから著作物となりえないとするが、機能性にかかる表現であっても、創作者が同じ機能を実施するために他の表現方法を用いることができる場合には、著作物として保護される。

Oracleの主張は、パッケージ>クラス>メソッド、という抽象的な構造についての著作権ではなく、37の各Java APIに認められる特定の命名及び構成方法についての著作権であり、具体的な表現と認められる。また、同じ機能を実施するためのほかの表現方法があったことも認められる。

したがって、著作物性は認められる。

フェアユースについて

本件で注目されるのは、GoogleのInteroperability*14についての主張に対して控訴審が下した判断の内容です。原審は、Interoperabilityを著作物性の問題の中で検討していましたが、控訴審はそれを誤りであるとし、次のOracleの主張を正当として採用しています*15

GoogleによるInteroperabilityの主張が関連性を有するとすれば、それはフェアユースについてのみであり、APIパッケージの著作物性の問題には関係しない。

続けて、業界標準になったからといって、著作物性が否定されるわけではないということも述べています。別の例を考えるとすると、あるアイドルグループの曲が非常人気が出て、その曲を歌うことができないカラオケ店はもはやカラオケ店としてやっていけなくなったという場合に、その曲を準備しておくことはカラオケ店の標準になったとすら言えそうですが、だからといってその著作物性が否定されるわけではない、と言えば、腑に落ちやすいですね*16

続けて控訴審は、フェアユースの成否を判断するに当たり必要な要素を示し、それらを判断する事実が明らかにされていないとして、原審に差し戻しました。その要素とは以下の4つです。

  1. 使用の目的及び特徴
    1. 商業的使用か非営利の教育目的の使用か
    2. transformativeか
  2. 著作物の性質
    1. 創作的表現か機能的表現か
  3. 著作部全体に占める、複製された部分の占める割合
  4. 潜在的市場への影響

これらの各要素の重要性ですが、使用の目的や特徴によって変わるとされており、あらかじめその帰結を予測することは非常に困難です。もっとも、その結果として事案に即した合理的な解決が導かれうるということも言えますね。ですので、包括的な権利制限規定としてのフェアユース条項が創作活動に対する萎縮効果を与えるとは必ずしも言えないと思っています。

少し脱線したので話をフェアユースの要素に戻します。各要素は条文に定められているものであり、判決はそれらに関連する先例の判断も説明しています。条文、先例に沿って判断すべしとの原審へのメッセージですね。

上記の第3の要素として述べられているのとは逆の、被疑侵害品における複製部分の占める割合については、その割合が多いことは原告の著作物の価値が高いことを示す証拠となる、と控訴審が明示しています。ただ反対に、被疑侵害品におけるコピー部分の占める割合が少ない場合に価値がないとまで言えるかは、プログラムという著作物の性質を考慮した場合、疑問です。結論先取りになりますが、本件では、Googleはインブルメンテーションコードは自作しているとのことなので、量的には少ないかもしれません。それでも、そのことからデクラレーションコードや構造等の価値は低いというのはかなりの説明を要するように思います。

今後の動きとしては、GoogleによるInteroperabilityの主張に対し裁判所がフェアユースの枠組みの中でどのように判断するかという点が注目されます。Interoperabilityの問題というと、近時は標準化団体(SSO)の活動、特にFRAND原則との関係で議論されてきましたが、そこでなされうるような議論が、フェアユースの適用においても同じように展開されるのか(上記の4要素による判断枠組みはそれを許すものといえますが、他方で、強制するものとはいえません)、注目してみたいと思います。

*1:古くて新しい問題という印象です

*2:サンマイクロシステムズ社が開発し、同社の権利をOracleが承継

*3:こういった例えを判決中に見ることは日本ではあまり無いように思います。米国の判決を読み慣れていくにつれて、特に驚かなくなってきました。むしろ分かりやすいので、日本でも同じことがあってもいいような気がしています。

*4:java.lang, java.io, 及びjava.util

*5:一部(rangeCheck及び複数のセキュリティファイル)については侵害が認められましたが、ここでは割愛します。

*6:“When the questions on appeal involve law and precedent on subjects not exclusively assigned to the Federal Circuit, the court applies the law which would be applied by the regional circuit.” Atari Games Corp. v. Nintendo of Am., Inc., 897 F.2d 1572, 1575 (Fed. Cir. 1990). Copyright issues are not exclusively assigned to the Federal Circuit.See 28 U.S.C. § 1295. The parties agree that Ninth Circuit law applies...

*7:相互運用性、互換性

*8:なお、これらのいずれの理論も、第9巡回区では積極的抗弁(Affirmative defense)と位置づけられますが、控訴審はその点はさておいて判断するとしています

*9:ソフトウェアに限らない一般論としてのScenes a Faire理論は、表現であっても、標準的、一般的またはありきたりなものや、一般的なテーマ又は状況から当然に生じるものについては、著作権法による保護は及ばないとするもの。

*10:Lotus Development Corp. v. Borland International, Inc., 49 F.3d 807

*11:Method of operation

*12:Atari Games Corp. v. Nintendo of Am., Inc., 975 F.2d 832

*13:expression of [a] process or method

*14:相互運用可能性、互換性

*15:"Specifically, Oracle argues that Google’s interoperability arguments are only relevant, if at all, to fair use—not to the question of whether the API packages are copyrightable. We agree."

*16:カラオケの例は、①Interoperabilityとは関係ないという点、②カラオケ店と楽曲の著作者とが直接の競争関係にないという点で、Oracle v. Googleと違うといえますが、その点もやはり著作物性に影響せず、フェアユースの枠組みの中で検討されるべき事情となると考えています。