IP/IT Law 日誌

IP/IT(知的財産及び情報通信)に関する法律について情報発信をしていきます。

Tariff Act 337条概要

知的財産権を侵害する製品の輸入取締において、税関の役割は事情に重要です。

例えば日本では、主に権利者からの申し立てがある場合に、知的財産権侵害品の輸入を税関が差し止めるという制度が設けられ、商標権を中心に活用されているところです。

知的財産権侵害品の輸入取締に関してよく知られている米国の手続きとして、ITCによる手続きがあります。ITCが知的財産権侵害の有無を判断し、一定の要件を満たす場合には、その輸入を差し止める効果を有する、排除命令*1を出すものです。この排除命令を税関が執行するわけです。この方法による知的財産権侵害品輸入の取り締まりの根拠規定の1つとなっているのが関税法337条(以下、§337)で、同条の国内産業要件に関しては、日本語のものも含め、いろんな資料でたびたび紹介されていますね。ここでは、それら裁判例の理解の前提として、§337の法文を確認したいと思います。なお、法文は、こちらで参照できます。


実体部分

サブセクション(a)が実体部分を定めていますが、そのうちまず(1)において、概要以下の通り、ITC手続きの対象となる違法行為が定義されています。
(A) 不正競争行為に該当する輸入等
(B) 特許権侵害品又は著作権侵害品の輸入等
(C) 商標権侵害品の輸入等
(D) マスクワークに関する権利の侵害品の輸入等
(E) 船舶等を含む実用品に関する著作権の侵害品の輸入等

これらのうち、(B)(C)(D)(E)については、続く(2)において、米国内において関連する産業が存在しなければ、ITC手続きの対象とならないことが定められています。これがいわゆる、国内産業要件と言われるものですね。あまり問題とされないように思いますが、特許権に限らず、商標権等のその他の知的財産権についても、国内産業要件が必要とされることが分かります。さらに続く(3)が、上記の国内産業要件につき、以下の場合に、米国内に関連する産業が存在するといえることを定めています。

with respect to the articles protected by the patent, copyright, trademark, mask work, or design concerned—
(A) significant investment in plant and equipment;
(B) significant employment of labor or capital; or
(C) substantial investment in its exploitation, including engineering, research and development, or licensing.
これらの3要素は、その文言から("or"で列挙されている)、いずれかを満たせばよいこととなります。

これらをもとに、どういった場合に国内産業要件を満たすかについて複数の判例が出されていますが、それらによれば、2つの要素で判断されています*2。すなわち、経済的要素*3と技術的要素*4であり、それぞれ、事案に応じ検討が必要となります。

手続部分

サブセクション(b)以後が手続き部分について定めています。ここでは、手続きのごく基本的な部分についてのみ見てみましょう。

調査開始、決定
まずサブセクション(b)の(1)が、ITCによる調査の開始について定めており、当事者からの申し立てによる場合とITCの職権による場合があること、及びITCは調査開始から45日以内に最終的な判断を下す予定日を定めなければならないこと等を規定しています。

サブセクション(c)はITCの決定について定めています。この中で、ITCは、同意命令又は当事者間の合意に基づいて*5、最終的な決定を下す前に調査を終了することができることも明らかにされています。

救済
サブセクション(d)の(1)が排除命令と呼ばれる救済について定めており、ITCは違法行為があると判断した場合には、排除命令を出すこととなります。但し、米国の公益に照らして対象となっている製品が必要であるとITCが判断する場合には、排除命令は出されません。

続く(2)は排除命令の対象範囲について定めています。基本的には排除命令の効果は対象者の製品に限られます。但し、輸入者がかかる限定的な排除命令をかいくぐって輸入するような場合には、ITCは一般排除命令*6を出せます。

なお、排除命令を出すための要件に、裁判所が差し止め命令を出す場合と同等の要件*7を満たす必要があるかという点については、これを否定する判断が既に下されていますが、ホワイトハウスからその点を変更する立法提案がなされています。特許不実施主体*8による濫訴への対応という意図が読み取れますが、ITCの公表資料では、eBay要件はITC手続きの利用件数に関係しないことも示唆*9されており、興味深いです。

その他
以降、没収等の措置が定められています。なお、オバマ大領がApple製品の輸入差し止め決定に対して発動したことで話題となった、大統領の拒否権は、サブセクション(j)において定められてますね。
(参照:Obama vetoes Apple sales ban in U.S.



以上を前提に、具体的な事案等についてはまた改めて紹介したいと思います。

*1:exclusion order

*2:two prong test

*3:economic prong

*4:technical prong

*5:by issuing a consent order or on the basis of an agreement between the private parties to the investigation, including an agreement to present the matter for arbitration

*6:general exclusion order

*7:eBay事件判決で立てられた要件

*8:NPE

*9:"Some commentators have suggested that NPE filings, particularly by Category 2 NPEs, account for the increased caseload at the USITC because of the U.S. Supreme Court’s decision in eBay, Inc. v. MercExchange, LLC, which made injunctions more difficult to obtain in district courts. However, those commentators have not offered a convincing analysis of the data on investigation institutions to support this suggestion. "と、当該資料中で述べられています。