IP/IT Law 日誌

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Copyright Preemption (Orioles v. MLB Players)

Copyright preemptionとは

米国著作権法は、その301条(a)において、著作権法が対象とする事項については、連邦法たる米国著作権法のみが適用され、それらの事項について、州の制定法及びコモンローが定めることは出来ず、それらに基き権利が認められることはない旨を明らかにしています。Copyright preemptionと言われるルールですね。

著作権であろうがそれ以外であろうが、法的な保護が与えられるのであればどちらでもいいんですけどという声も聞こえてきそうですが、1つの事実関係の中で、著作権法に基づき判断した場合には原告に独占権(著作権)は認められないものの、他の法律/法理に基づいて判断した場合には権利があるという場合もあるので、単に理論的な問題というわけではないのです。しかも、米国著作権法301条(a)が適用される範囲について明確に線引きをすることはなかなか難しい。

Copyright preemptionが争点となったやや古い事件に、Orioles v. MLB Players Ass'n*1というものがあります。ここでは、メジャーリーグの試合放送の放送権との関係で、パブリシティ権がPreemptionの対象となるかが争われました。どのようにPreemptionが争点となり、裁判所がどう解決したか、順に見てみましょう。

事案の概要

MLBの選手からなる組織(以下、「選手会」)がMLBに属する球団及び球団と放送権契約を締結していた放送局に対して、MLBの試合放送は選手の許諾なくしてなされているものであり、選手の権利を侵害していると主張しました。交渉を経たものの解決には至らず、球団は選手会を被告として、試合の放送については球団が独占的に放送権を有するとの確認を求めて提訴しました。1982年6月14日、イリノイの連邦地裁でのことでした。

これとは反対に、同年7月1日、一部の選手が、ニューヨークの連邦地裁に対し、試合の放送は選手の名前、肖像、プレイを利用するものであり、選手の権利を侵害するとの確認、損害賠償及び差し止めを求め、球団を被告として提訴しました。

そこで両事件は、イリノイの連邦地裁において併合されました。

球団は、著作権法にある、職務著作*2規定に基づき権利が球団に属する等といった主張をし、選手は、ニューヨーク州法(パブリシティ権について定める規定*3に基づき選手の権利が侵害されていると主張しました。

連邦地裁は、球団側の著作権法に基づく主張を認める判断を下したため、選手会が連邦第7巡回区裁判所に控訴しました。

連邦第7巡回区裁判所の判断

連邦第7巡回区裁判所は、試合の放送*4について職務著作該当性を肯定し、球団が著作権を取得すると判断しました。選手がプレイについて有するパブリシティ権を侵害するとの選手会の主張については、裁判所は、次の通り、Copyright preemptionが適用されるとし、選手会の主張を認めなかったのでした。

米国著作権法301条(a)は、Copyright preemptionが適用されるためには次の2要件のいずれもが満たされなければならない。

  • 対象となる作品が有形物に固定化され、著作権法102条の定める著作権対象範囲に含まれること("§102要件")
  • 対象となる権利が、著作権法106条において特定されている著作権の内容と同等であること("§106要件")

[§102要件]
選手会は、プレイ自体は有形物に固定化されていないため、プレイについてのパブリシティ権にはCopyright preemptionは適用されない、と主張する。確かに、例えば振り付けなどであって、有形物に固定化されていないものは、Copyright preemptionの対象にはならない。しかしながら、プレイは、放送され録画されることによって有形物に固定化されたのであるから、§102要件は満たさる。

選手会は、Copyright preemptionが適用されるためには、著作物性も認められなければならない、しかし、プレイは創作性を欠き著作物性が認められないため、Copyright preemptionの適用はないとも主張する。しかし、議会は、102条及び103条のカテゴリーに入る限りは、創作性を欠く場合でもCopyright preemptionが適用されるとの立場を明らかにしており、かかる主張は認められない。


[§106要件]
州法上の権利が§106要件を満たすかは、106条に規定される行為が行われた場合に、当該権利が害されるという関係にあるかによって判断される。

選手会は、選手のパフォーマンスについてパブリシティ権を主張している。先例上、パフォーマンスの放送が、パフォーマンスについてのパブリシティ権の侵害に該当することは明らかである。したがって、§106要件も満たされる。

検討

まずは、固定化されていない作品についてはCopyright preemptionが適用されないことを明示している点を確認しておきましょう。固定化の要件が著作権法の対象範囲を決める一要素になっているわけですね。しかし、固定化されていれば一切合財、Preemptionの対象になると結論付けるのも早計です。

結局、この事件ではPreemptionの対象とるかどうかを画一的に判断できるような基準を打ち出したというわけではなく、Preemptionの対象となる一つの事例を具体的に指摘した、というような理解のほうが、すっきりすると思います。裁判所も、後に別の事件で、本判決の趣旨を説明しており、そこで、パブリシティ権についての州の立法全てをPreemptionの対象としたわけではない、と述べています。

究極的には、著作権法が対象としている事項かどうかという問題なのですが、インターネットをはじめ、いろんな技術革新が表現の世界を取り巻く現代、その線引きは難しくなるかもしれません。また別の記事で、Copyright preemptionを取り扱った具体的なケースを紹介したいと思います。

ちなみに、裁判所は、この事件で、Copyright preemptionを肯定しつつ、選手会としては、球団と著作権の帰属について交渉し、放送により得られる利益が選手にも配分される仕組みを求めることが可能であるとも指摘しています。著作権の枠組みの中で、球団と交渉して決めてね、という、選手へのメッセージみたいですね。

*1:Baltimore Orioles, Inc. et al., v. Major League Baseball Players Ass'n. 805 F.2d 663, Seventh Circuit, 1986

*2:works made for hire

*3:Sections 50 and 51 of the New York Civil Rights Statute. なお、この規定は、形式上はright of privacyについての定めとなっているが、パブリシティ権についての定めを含んでいます。

*4:なお、選手のプレーに著作物性があると認めたわけではなく、放送内容について著作物性を認め、それが職務著作として球団に著作権が帰属すると判断したものです。また、米国著作権法上、著作物として認められるためには、Fixation(有体物にのせること)が必要ですが、たとえ生中継であっても、放送と同時に録画されていればFixationをみたすこと(米国著作権法102条(a))についても指摘されています。