IP/IT Law 日誌

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Nominative Useの訴訟法上の扱い

「○○ブランド、こちらで販売します」といった宣伝文句中での商標(○○)の使用は、真正品を販売するためであっても商標権侵害になるでしょうか。

いろんな切り口からの考え方があり得ますが、米国では、その一つとして、Nominative useの問題が検討されます。もっとも、米国商標法におけるのNominative use*1については、巡回区裁判所間で判断が一致していない点があり、その統一も既に提案されているところです*2。ここでは、第9巡回区裁判所と第3巡回区裁判所の判断の相違点をまとめ、若干のコメントを残したいと思います。

New Kidsテスト(第9巡回区裁判所)

まずは関連する法の確認です。

ランハム法上、商標を説明的に使用する場合は、Fair Useが成立し、商標権侵害に該当しないということが、制定法で明らかにされています(15 U.S.C. 1115(b)(4))。当該法文が対象としている使用は、使用者が、使用者自身の商品を説明するためにする使用を、公正といえる範囲で商標権侵害から除外するものであり、Classic fair use又はDescriptive fair useと言われています。Nominative useは、商標権者の商品に言及するためにする使用であるという点で、Classic fair useとは異なっていますね。Nominative fair useは、制定法上の根拠を有さず判例法により認められた類型であると言われています。

1992年、第9巡回区裁判所は、New Kids on the Block v. News America Pub, Inc.において、このNominative useの問題をClassic fair useと明確に区別*3したうえで、Nominative fair useについて、概要次のように判断しています*4

被告は、被告が以下の3要件全てを満たす場合、Noimnative fair useの防御方法(defense)によって、商標権侵害を否定できる。
  • 対象となっている商品又は役務が、当該商標を使用せずに容易に特定できるものでないこと
  • 当該商品又は役務の特定のために、当該商標の使用が合理的に必要であること
  • 当該商標との関係で、商標権者による支援/支持を推認させるような行動をなんらとらないこと
このNominative fair useの問題と、商標の誤認混同の可能性の関係につき、第9区巡回裁判所は、2002年、New Kidsテスト(上記の3要件のテスト)は誤認混同の可能性につき伝統的に採用されている判断基準*5に代わって適用されるテストである旨も判示しています*6

上記2つの裁判例では、Nominative useの問題をdefenseと称してはいるものの、立証責任の負担が明確な争点とされていたわけではなく、訴訟法上の意味でのdefenseを意味していなかったとの解釈も可能なように読めたように思います。しかし続く2003年、第9巡回区裁判所は、Brother Records, Inc. v. Jardineの判決文脚注において、「Nominative fair use defenseは、商標の誤認混同の可能性について、(原告から)被告に立証責任を転換するものである」(かっこ内は筆者補充)*7と示しました。このことから、2003年の時点で、第9巡回区裁判所がNominative fair useを訴訟法上の意味での防御と扱っていたことは動かせなくなりました。

誤認混同の可能性に関する最高裁のその後の判示

翌2004年、最高裁が、Classic fair useを主要な争点とする事件*8において、商標法は、誤認混同の可能性(すなわち商標権侵害)について、商標権者にその立証責任を負担させることを定めていると解される旨を判示ました。

第3巡回区裁判所による批判

さらにその後の2005年、第3巡回区裁判所は、Centry 21 Real Estate Corp. v. Lendingtree, Inc.において、Nominative fair useについて判断する機会を得、そこで、第9巡回区裁判所の立証責任の負担に関する判断枠組みは原告を誤認混同に関する主張立証責任から解放するものであり、上記最高裁判例及び商標法の条文の文言に反するものである、とする批判を展開しました*9

第9巡回区裁判所による判例変更

上記の批判を受けたのちの2010年、第9巡回区裁判所は、Toyota Motor Sales, U.S.A., Inc. v. Tabariにおいて、Nominative fair useが争点となる場合の立証責任の負担について判例変更を明確にしました。ここで裁判所は、まず、誤認混同の可能性について被告が立証責任を負うこととなるとしたBrother Records事件での判示は上記最高裁判例により否定されたと示し、それに続き、次の通り判示*10しました(かっこ内は筆者補充)。

Nominative fair useを防御方法として提出する被告は、被告が対象商標を、商標の対象となっている製品に言及するために使用したことを示せば足り(中略)、(その場合)誤認混同の可能性について、原告に立証の負担が戻ってくることとなる。
これにより、第9区巡回裁判所においては、Nominative useの問題も、商標の誤認混同の可能性の問題の1つであり、その立証責任は原告が負担するというように整理されました。

残された課題

上記第9巡回区裁判所の判断とは異なり、第3巡回区裁判所は、Nominative fair useは、請求原因とは別個独立の防御に関する問題であり、原告が誤認混同の可能性について立証した場合、被告がNominative fair useであることについて立証責任を負う、という整理をしています。すなわち、誤認混同の可能性はあるものの、なお公正な使用として許されるべきNominative fair useという類型を認めるわけです。いわば、Classic fair useについてのルールを、Nominative useについて準用するような考え方と言えるでしょうか。

ただ、個人的には、第3巡回区裁判所のアプローチは、Classic fair useの規定を不当に拡張するもののように思えます。というのも、誤認混同の可能性を離れて、Nominative useが公正であるというべき場合があるのかという点で疑問が残るからです。そのため、Nominative useを独立の防御方法と扱うか、という点においては、これを否定する第9巡回区裁判所の判断の方により説得力を感じます。

なお、第9巡回区裁判所の判示に従うとしても、「Nominative fair useを防御方法として提出する被告は、被告が対象商標を、商標の対象となっている製品に言及するために使用したことを示」す必要があるわけですが、具体的にどのような事実を示す必要があるのか(例えば、工場からのリーク品であることが疑われる場合に、被告が真正品であることの立証責任を負うのか、等)、という点は、別途検討が必要な問題となりそうです。

  1. 第三者が、商標権者の商品に言及するために、(商標権者から許諾を得ずに)商標を使用する場合についての議論です。日本でも、出所識別・品質保持機能を害する使用かどうか、という枠組みで議論可能ですね。
  2. 例えば、こちら→INTA・The Trademark Reporter, Vol 102, 820
  3. "To be sure, this is not the classic fair use case where the defendant has used the plaintiff's mark to describe the defendant's own product." New Kids on the Block v. News Am. Pub., Inc., 971 F.2d 302, 308 (9th Cir. 1992)
  4. New Kids on the Block v. News Am. Pub., Inc., 971 F.2d 302, 308 (9th Cir. 1992)
  5. いわゆるSleekcraftテスト
  6. In cases in which the defendant raises a nominative use defense, the above three-factor test should be applied instead of the test for likelihood of confusion set forth in Sleekcraft. Playboy Enterprises, Inc. v. Welles, 279 F.3d 796, 801 (9th Cir. 2002)
  7. "the nominative fair use defense shifts to the defendant the burden of proving no likelihood of confusion." Brother Records, Inc. v. Jardine, 318 F.3d 900, 909 (9th Cir. 2003)
  8. . "Section 1115(b) places a burden of proving likelihood of confusion (that is, infringement) on the party charging infringement" KP Permanent Make-Up, Inc. v. Lasting Impression I, Inc., 543 U.S. 111, 118, 125 S. Ct. 542, 548, 160 L. Ed. 2d 440 (2004)
  9. "the approach of the Court of Appeals for the Ninth Circuit would relieve the plaintiff of the burden of proving the key element of a trademark infringement case—likelihood of confusion—as a precondition to a defendant's even having to assert and demonstrate its entitlement to a nominative fair use defense. Century 21 Real Estate Corp. v. Lendingtree, Inc., 425 F.3d 211, 221 (3d Cir. 2005)"
  10. "A defendant seeking to assert nominative fair use as a defense need only show that it used the mark to refer to the trademarked good []. The burden then reverts to the plaintiff to show a likelihood of confusion."Toyota Motor Sales, U.S.A., Inc. v. Tabari, 610 F.3d 1171, 1183 (9th Cir. 2010)