IP/IT Law 日誌

IP/IT(知的財産及び情報通信)に関する法律について情報発信をしていきます。

アップル対サムスン(知財高裁大合議判決)

今さら米国の運転免許を取得したり今後のビザについて考えたりなどしている間に、なかなか更新できず少し日があいてしまい、その間に、日本ではアップル対サムスン知財高裁判決が出され、判決文も公表されました(知財高裁HP)。

以前取り上げたとおり、この事件では一般からの意見募集がなされましたが、判決の最後で寄せられた意見について言及されています。それによりますと、差止請求権の行使が一定程度制約されるべしとの意見の中では

① FRAND宣言によって第三者のためにする契約が成立するとの見解と,かかる契約は成立しないとの見解の相反する二つの見解が寄せられた。両意見とも多数寄せられた。
② 信義則や権利濫用の法理による制限を行うべきとの意見も数多く見られた。
独占禁止法を活用すべきとの意見もあったが,その数は少数であった。

とのこと。③は、独禁法を論じた意見が少なかったことと理解しています*1独禁法違反の私法上の効力の問題もあり、民法構成(①②)の方が直接的ですので、上記の結果も理解できるところですが、やはり少し意外でした。私の意見としては、FRAND宣言をした場合の権利行使の制限に関する実質的な問題点を把握して対応するには、少なくとも独占禁止法/競争法の視点を無視することはできないと考えています。

また、本質的な部分ではないのですが、意見募集という手続きについて判決が以下の通り述べたのも興味深いです。

当裁判所は,同争点が,我が国のみならず国際的な観点から捉えるべき重要な論点であり,かつ,当裁判所における法的判断が,技術開発や技術の活用の在り方,企業活動,社会生活等に与える影響が大きいことに鑑み,当事者の協力を得た上で,国内,国外を問わず広く意見を募集する試みを,現行法の枠内で実施することとした。

今後同様の手続きを取るかどうかが検討される場合*2には、この部分の判示が参照されると思われます。裁判所が自ら行った手続きについて、あえて「現行法の枠内で実施」と述べるのも面白いところで、法改正を待たずに意見募集をしうるよ、という知財高裁の*3メッセージにも思えます。

*1:独占禁止法に基づく差止訴訟(差止請求の差し止め訴訟となってややこしいですね…)を活用すべきであって通常の民事訴訟で対応すべきでないといういう意見の可能性も感じないではないですが。

*2:立法化なしにどれくらいの裁判所が実施を検討するかという点は、私もかなり懐疑的ではあります。ただ個人的には積極的に一般からの意見募集の方法を裁判所が取れるといいなと思っています。

*3:裁判長の、というべきでしょうか。

Tariff Act 337条概要

知的財産権を侵害する製品の輸入取締において、税関の役割は事情に重要です。

例えば日本では、主に権利者からの申し立てがある場合に、知的財産権侵害品の輸入を税関が差し止めるという制度が設けられ、商標権を中心に活用されているところです。

知的財産権侵害品の輸入取締に関してよく知られている米国の手続きとして、ITCによる手続きがあります。ITCが知的財産権侵害の有無を判断し、一定の要件を満たす場合には、その輸入を差し止める効果を有する、排除命令*1を出すものです。この排除命令を税関が執行するわけです。この方法による知的財産権侵害品輸入の取り締まりの根拠規定の1つとなっているのが関税法337条(以下、§337)で、同条の国内産業要件に関しては、日本語のものも含め、いろんな資料でたびたび紹介されていますね。ここでは、それら裁判例の理解の前提として、§337の法文を確認したいと思います。なお、法文は、こちらで参照できます。

*1:exclusion order

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Nominative Useの訴訟法上の扱い

「○○ブランド、こちらで販売します」といった宣伝文句中での商標(○○)の使用は、真正品を販売するためであっても商標権侵害になるでしょうか。

いろんな切り口からの考え方があり得ますが、米国では、その一つとして、Nominative useの問題が検討されます。もっとも、米国商標法におけるのNominative use*1については、巡回区裁判所間で判断が一致していない点があり、その統一も既に提案されているところです*2。ここでは、第9巡回区裁判所と第3巡回区裁判所の判断の相違点をまとめ、若干のコメントを残したいと思います。

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