IP/IT Law 日誌

IP/IT(知的財産及び情報通信)に関する法律について情報発信をしていきます。

パブリシティ権侵害と表現の自由(Brown v. Elec. Arts)

日本の知的財産権法実務では、表現の自由が明確に抗弁として提出されるようなことはあまりないかと思いますが、米国では、知的財産権の侵害訴訟において、表現の自由で保護された表現であって、侵害を構成しないという反論がなされ、実際に認められています。

ここでは、最近のそのような例の1つである、Brown v. Electronic Arts, Inc.*1を取り上げます。元アメリカンフットボールの選手が、自分の肖像がゲームにおいて無断で用いられたことを理由として、ゲーム会社を提訴した事案です。

*1:Brown v. Elec. Arts, Inc., 724 F.3d 1235. 9th Cir. 2013).

続きを読む

Copyright Preemption (Orioles v. MLB Players)

Copyright preemptionとは

米国著作権法は、その301条(a)において、著作権法が対象とする事項については、連邦法たる米国著作権法のみが適用され、それらの事項について、州の制定法及びコモンローが定めることは出来ず、それらに基き権利が認められることはない旨を明らかにしています。Copyright preemptionと言われるルールですね。

著作権であろうがそれ以外であろうが、法的な保護が与えられるのであればどちらでもいいんですけどという声も聞こえてきそうですが、1つの事実関係の中で、著作権法に基づき判断した場合には原告に独占権(著作権)は認められないものの、他の法律/法理に基づいて判断した場合には権利があるという場合もあるので、単に理論的な問題というわけではないのです。しかも、米国著作権法301条(a)が適用される範囲について明確に線引きをすることはなかなか難しい。

Copyright preemptionが争点となったやや古い事件に、Orioles v. MLB Players Ass'n*1というものがあります。ここでは、メジャーリーグの試合放送の放送権との関係で、パブリシティ権がPreemptionの対象となるかが争われました。どのようにPreemptionが争点となり、裁判所がどう解決したか、順に見てみましょう。

*1:Baltimore Orioles, Inc. et al., v. Major League Baseball Players Ass'n. 805 F.2d 663, Seventh Circuit, 1986

続きを読む

日弁連意見書(知財高裁大合議)

前のブログからの引っ越しを考えている間に、書き留めておきたいことが出てきたので、先にアップしてしまいたいと思います。

日本版アミカスクリエ

世界中で注目を集めているサムソン社とアップル社の特許訴訟ですが、日本でも、東京地裁がFRAND宣言に言及し、特許権の行使を認めないとする判決を下したことが、報道でも取り上げられていました。東京市地裁の判決はこちら(裁判所HP)で見られます。

当該事件は控訴され、現在、知財高裁に係属中(飯村敏明裁判長)ですが、そこで、裁判所が、両当事者を通じて、当該事件についての意見募集をし、当事者のもとに集められた資料は、当事者が裁判所に証拠として提出する、という手続きが取られました。珍しさもあり、こちらも報道(日経新聞HP)されています。

このような手続きは、アメリカにはあるのですが(アミカスクリエと呼ばれます)、日本の民訴法上は具体的な根拠規定を欠くため、裁判所が当事者の協力という形で実現したものといわれており、実際そうだと思います*1

この意見募集に応じて日弁連が提出したという意見書が、日弁連のサイトで公開されています。

詳細には読めていませんが、一読してまず目についたのが、日本版アミカスクリエを実施したことに対する賛同でした。そこは、今回の意見募集の対象事項ではないので、ある意味、日弁連の強い気持ちが表れているのかなという気がします。

この意見募集の場をそういう風に使っていいのかどうかという点はさておいて、日本版アミカスクリエへの賛意については、私も賛同したいと思います。具体的な根拠規定を欠く中で現行法で許される範囲において、当事者以外の意見も広く受け入れようとする裁判所の姿勢は評価されるべきです。また、それに応じた両当事者のことも忘れてはなりません。集められた意見の中には、必ずしも自己に有利なもの場会ではない可能性もあります。また、通常ならば生じない事務的な負担を当事者が負うことにもなります。

法の規定がなくても実現できたのは、裁判所の熱意と当事者の理解があったからだと言えますが、広く意見を募集することの重要性にかんがみれば、やはり裁判所が主体的に行える法的な枠組みがあった方がいいでしょう。今後、導入に向けた積極的な検討が期待されます。

FRAND関係部分

さて、肝心のFRAND宣言と権利行使の制限についてですが、日弁連の意見書は、ざっくりいって、契約周りの論点を日弁連が整理して提示する内容になっており、独禁法の専門家でなくても読めるものになっています。特に独禁法プロパーな観点からの意見は述べていない点はやや意外でしたが、原審も独禁法には深入りせずに*2基本的に契約に関連する部分で判断を下していましたので、それに沿った意見とも考えられようかと思います。

他にも意見を公開している団体・個人の方がいらっしゃれば、そのような意見も含め、ちゃんと時間を取って読んで、判決を想像したりするのも楽しいかもしれません*3

*1:どうしても剽窃だとかいろいろ気になってしまって、回りくどい表現になってしまいがちです。ご容赦ください

*2:両当事者はそれぞれ独禁法について主張を展開しています

*3:が、結局時間が取れずに読めないうちに判決がでる可能性が高いです。